3年目の2月14日
(ときメモ3の芹華の二次創作小説)



この時期になると彼女はここ3年間、必ずこの場所に足を運んできた。
一昨年は日用品の買い物のついでに。
去年はこの買い物のために。
そして今年も。
「・・・・・・・・・・・・。」
彼女、神条芹華は、またこの場所に来ていた。

『バレンタイン・チョコ 特設コーナー』

いつも買い物をするスーパーの1コーナーに過ぎないので、たいした品揃えはない。
もっと大きなデパートに行けば他にも色々あるだろうことは分かっていたが、
騒々しいのが苦手な芹華にしてみれば、そんな混みそうな所は御免だ。
とはいえ、今年は気になって、一応行くには行った。
しかし、結局は想像以上の人ごみに圧倒されて諦めた。
やはり、結局はここで選ぶしかない。
「・・・・・・・・・・・・。」
(去年って・・・どんなやつ買ったんだっけ。
さすがに同じもの買っちゃったらまずいよな。適当でさ。
どれも似たようなパッケージに見えるから、どれ買ったかよく分からないんだよなあ。
それにしても、なんでこう、いかにもってパッケージばっかりなんだろうな。
もうちょっと、そうだな、かっこいいパッケージとかあってもいいんじゃないか?)
芹華はこのコーナーに来てからもう1時間くらい考え込んでいる。
とは言っても、ここにずっと留まっていたわけではない。
かごを持って、コーヒーを入れて、あちこち見て回る風を装いつつ、だ。
そしてまたこのコーナーを離れて、あちこち見て回る風を演出しようとした時だった。
「芹華」
「!」
ぱっと振り向くと、そこには親友の恵美がいた。
(み、見られた・・・!?)
芹華は一瞬驚いたものの、平静を装い、
コーヒーが入っているのが恵美によく見える位置に、かごを持ちかえた。
「や、やあ、恵美じゃないか。買い物かい?」
恵美はニコリと微笑んだ。
「ええ、明日はバレンタインデーでしょう?
だから、義理チョコの材料を買いに来たんです。」
そして平然と視線を、チョコのコーナーに移す。
「そ、そうか。いやさ、あたしはちょっとコーヒーが切れたからさ。」
「そうですか」
言いながら、かごに板チョコやトッピングを入れる恵美。
(な、なんとかごまかせたか・・・?)
「あ、ああ、まいったよ。
今朝、お湯沸かしたらコーヒーがないんだもんな。はは・・・。」
そしてチョコを選び終えた恵美は視線を芹華に戻した。
「ところで芹華」
「ん、なんだい?」
「やはり、本命でしたら手作りがいいと思いますよ」
(・・・ばれてる?)
「な、なんの話しだい?あたしはただコーヒーを」
「この前、あの人が言ってましたよ。
なんでせりちゃんはチョコを手作りしてくれないんだろう、と」
「あ、あの人って誰だよ。はは・・・」
「ちょっといいですか?」
言うが早いか、恵美はぱっと芹華の買い物かごをぱくった。
「え、おい、どうする気なんだい?」
慌てる芹華に構わず、恵美はスタスタ進み、
どんどん商品をかごに入れていく。
板チョコ、トッピング、型、ラッピング、・・・。
「お、おいそれって・・・」
恵美はもう入れるだけ入れたのか、かごの中を確認すると、芹華に渡した。
「じゃあレジに行きましょうか」
「レジったって、恵美。これは」
「レジに行きましょうか」
「待てよ、あたしは買う気ないよ、こんな」
芹華が商品を戻しに行こうとすると、すばやく恵美の手が伸び、
がっしと芹華の手をつかんだ。
「レジに行きましょうか」
(・・・・・・負けた)
「・・・分かった、レジに行くよ。でもさ、これをどうするかは」
「はいはい、話はレジを出てからにしましょうね」




買い物から数時間後、芹華の部屋にて。
ふと気がつけば、芹華の目の前には手作りチョコ(ハート型)があった。
「なんとかできましたね、芹華」
「ほ、本当だ・・・。これ、あたしが作ったのかい?」
正確には、恵美の助言なくしては完成し得ないものではあったが、
恵美はうまく手を出さず助言のみにとどまって、これを完成させたのだ。
「ええ。これで今年は手作りが渡せますね。」
「!い、いや違うんだ!渡すとかじゃなくってさ。
そのさ、そう、自分で食べるんだよ!チョコレートって栄養あるからな。
非常食にぴったりなんだよ!あいつになんてやるわけないだろ!」
「あいつって誰ですか?私、誰にとまでは言っていませんよ」
「!・・・。」
芹華は恵美を見た。
もう全部お見通し、といった目をしている。
(・・・恵美には敵わないな)
芹華は大きくため息をついた。
「なんで・・・。いつから、気付いてたんだ?」
「いつからと聞かれても・・・。
最初から、でしょうか?
芹華を見ていれば分かります。」
「そんなに、単純じゃあないつもりなんだけどな。」
「でも、分かります。だって、私たち、親友ではありませんか。」
(・・・親友・・・?)
それは、芹華に初めて向けられた言葉だった。
友達という言葉さえ、今まで向けられたことなどほとんどない。
そんな芹華を、恵美は親友だと言う。
(恵美・・・)
言われて見れば、確かに、芹華も恵美のことは分かる。
恵美のことを聞かれれば、いつだって即座に答えられる。
それにしても・・・。
(恵美もあたしのこと、分かっててくれたんだな・・・)
そのことが、嬉しかった。
「それで、とうとう告白するんですか?」
その軽口に、一気にしみじみした思いが吹き飛んだ。
「こ・・・!?」
「まあ。・・・ふふっ、芹華のそんなに動揺した顔を見るのは初めてです。」
「いや、だって、恵美。お前な・・・」
困る神条の前でクスクス笑い続ける恵美。
(恵美・・・。まさかあたしをからかったのか?)
「いいんです、今のは忘れてください。・・・私はそろそろ帰りますね。」
恵美は笑い終えると、すっと立ち上がり玄関に向かった。
「あ、恵美」
恵美はもう靴を履き終え、ドアノブに手をかけていた。
「なんでしょう?」
「・・・ありがとうな、今日は。」
恵美はドアを開けながら、肩越しに微笑んだ。
「明日、頑張ってくださいね」
「え?・・っておいおい、あたしは告白なんてしないよ。」
「ふふ、誰も告白のことだなんていってませんよ」
「っ・・・!」
そういい残して恵美は帰っていった。
取り残された芹華は狐に化かされたような気分で自作チョコに視線を戻した。
「・・・・・・。」



2月14日。
男がやたらと期待し緊張しあるいは気にしないようにし、絶望もしくは至福あるいは妥協を感じる日。
芹華の言うところのあいつもその例にもれず、そわそわしていた。
(教室では一個ももらえなかったし、
廊下でも、それに、下駄箱にもなにも入ってなかった・・・。
机の中と下駄箱は、5回ずつくらい確認したんだけどなあ・・・)
そして下駄箱の、6回目の確認を終えると、彼は靴を履き、校門に向かった。
「おーい」
振り返ってみると、芹華がいた。
「せ、せりちゃん!どうしたの?」
芹華は頬を紅潮させながら、鞄から小さな包みを取り出した。
かわいらしいラッピングだ。
(こ、これは・・・!!)
「あのさ、これ、やるよ。
そのさ・・・・・・。
えっと、選ぶの、恥ずかしかったんだからな。
ちゃんと、食べろよな。」
「あ、ありがとうせりちゃん!大事に食べるよ!」
「ああ、絶対だぞ。本当、ちゃんと食べてくれよな!じゃあな・・・!」
芹華はぱっと駈けて行き、すぐに見えなくなった。
(嬉しい。確かに嬉しい。
今すぐここで小躍りしてリンボーダンスして屋上で自作詩集を大声で朗読しても悔いはないくらい嬉しい。
けど。やっぱり既製品なのかい、せりちゃん?
去年の冬、鍋、作ってくれたじゃないか・・・。
鍋が作れるなら・・・ねえ?)
そう思いつつ、小包に目をやる。
(・・・ん?)
既製品にしては、ラッピングが雑、というより拙い。
(新人店員だったのかな・・・?)
そしてラッピングをといてみると、
そこには、既製品とは思えない、少しいびつなハート型のチョコレートがあった。

END.


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こんなとこにあとがき。

これはですね。まんまですよ。
3年間、全然手作りしてくれないのが悲しくて書いたんです。
あ、そういえばハート型チョコといえば、2年目みたいですが
大丈夫です。
3年目で貰うのは、たいていの場合、”かわいらしい包装”チョコですよね。
このSSでは、それで且つハート型で手作りってことにしたんです。
だってベタだけど、手作り本命ならハート型が欲しいじゃないですか。
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