宮神学園の魔物
(ときメモ3の芹華と極上生徒会の二次創作小説)



聞き飽きた電話の音が、無遠慮に芹華を呼びつける。
即座に目を覚まし、時計に目をやると、深夜の2時だ。
(…こっちのことはお構いなしか。まあ、いつものことだけどな。)
ため息をつき、ゆっくりと受話器を取る。
「…何の用だ。」



翌日。
「あれ…、恵美ちゃん、芹華見なかった?」
同じ部活の男子生徒に問われ、恵美は困った顔をした。
「いえ…、それが、今日は学校に来ていないようなんです。」
「風邪…とか?」
「すみません、私にも分かりません。」
「そうか…、ありがとう。」
男子生徒は屋上にも顔を出したが、やはり芹華はいない。
「…まあ、明日は来る…よな?また怪我とかしてないといいんだけど。」


その頃芹華は、宮神学園に来ていた。
曇天の下、校門の前に立ち、昨日のことを思い出す。
昨夜の電話で、すぐに支度をして宮神学園に転入するように言われた。
勿論、反論はした。
「…ちょっと待てよ、まだこっちの仕事は済んでいない!なのに…」
「そう怒るな。宮神学園の任務は一時的なものだ。君ならすぐに解決できるだろう。」
「…解決したら、またここに戻れるんだな?」
受話器の向こうで微かに笑い声がした。
「そんなにこの学校が気に入ったか。」
「…あんたには関係ないだろ。それで?あたしはどうしたらいいんだ?」
「とりあえず、今すぐ学園に向かってくれ。転入手続きは済んでいる。
明日から学生として通ってもらう。」
「制服や学生証はどうするんだ?」
「向こうで受け取ってくれ。代金は支払済みだ。」
「…了解だ。」
芹華は即座に受話器を、少々乱暴に置いた。
「……華さん、芹華さん?」
「!」
急に呼ばれて振り返ると、宮神学園の制服を着た女子生徒が立っていた。
「ああ、そうだけど。あんたは…?」
芹華の無愛想な態度にも顔色一つ変えず、女子生徒は微笑んだ。
「宮神学園にようこそ。
私は、宮神学園極大権限保有最上級生徒会会長の神宮司奏です。よろしくね。」
「きょ、極大権限…?」
「ええ。宮神学園には、教師よりも権限を持った生徒会があるの。
そして、私がその会長。宮神学園の理事長も務めているわ。」
「へえ、随分変わった学校なんだな。」
「そうかしら?じゃあ、まず極上寮に案内するわね。」
「…寮?ここの学校は全寮制なのか?」
「いえ。極上寮は、極上生徒会の役員だけ。」
「でも、あたしは…」
「あなたは、何か特別な事情があるのでしょう?」
「!」
「あなたには詮索しないから、安心して。
私は、急にこっちへ来て、部屋探しをするのも大変だと思って用意しただけ。」
(こいつ…、一体どこまで知っているんだ?)
あなたには、詮索しないというもの引っかかった。
(詮索しない、とは言ってないんだよな。)
芹華の胸中を知ってか知らずか、会長は歩き出した。
「さ、こっちよ。」


極上寮に着くと、ちょうど朝食時だった。
「ただいま、皆。」
食卓に着いたほぼ全員から、おかえりなさいと返される。
(へえ、案外人望あるんだな。会長。)
そしてオレンジ色の短い髪をした、長身の少女が立ち上がった。
「会長、ご無事でしたか?!」
「ええ、大丈夫よ、奈々穂。」
「副会長さん、心配しすぎなんだよ。いい加減、会長さんにうざったがられるんじゃねえか?」
「なっ・・・!」
「もう、プッチャン!そういうことばっかり言っちゃだめでしょ!」
軽く自己紹介を済ませ、向こうの自己紹介を適当に聞いていたが、
芹華の目は自然とプッチャンと呼ばれた人形に向いた。
(…!あれか!?)
人形から、妙な気を感じる。
だが、魔物にしては、妙にすんなりこの場に溶け込んでいる。
芹華の視線に気付いたのか、人形がこちらを向く。
「…ん?なんだ、どうした?釣り目の白髪ねーちゃん。オレに惚れたかい?」
「あたしは白髪じゃない!」
おもわずつっこみを入れて、気付く。
(しまった。腹話術の人形相手にしゃべるなんて、あれが魔物だと知らない連中から見たら…)
が。
「ごめんなさ〜い、もー、プッチャンだめじゃない!」
「相変わらず口が悪い人形だな。」
「ごめんなさいね、芹華さん。気を悪くさせちゃったかしら。」
「え?あ、いや、別に…」
「そう?よかった。」
(…この連中、あれを「プッチャン」個人として認識しているのか?)
芹華の困惑をよそに、時は流れる。


部屋に案内され、荷物を置き、制服に着替えた。
部屋は小奇麗で、なかなか住み心地もよさそうだ。
コンコン
「極上生徒会副会長の金城奈々穂だ。準備はできているか?」
(奈々穂…、さっきのオレンジ色の髪の奴か。)
「ああ、今行く。」
ドアを開けると、副会長が学園に行く支度をして待っていた。
「どうやら同じクラスになるようだから、私が教室まで案内することになった。行こう。」
返事も待たずに歩き出すので、芹華は仕方なくついていった。
(…できれば、放っといて欲しいんだけどな。)
寮を出て、学園に向かう途中。
「ところで、神条…だと、私の名字と微妙にかぶるな。芹華でいいか?私も奈々穂でいい。」
「ああ、分かった。」
「よし。で、芹華。君も極上生徒会に入ってみてはどうかと会長が言っているんだが。
どうだろうか?」
「悪いけど、そういうのにはあんまり興味がないな。忙しいしね。」
「忙しい…?部活でもやるのか?」
「いや、あたしにはあたしの用があるんだ。」
「そうか…、気が向いたらいつでも言ってくれ。歓迎する。」


芹華は授業の合間合間に教室を抜け出し、学園内を歩き回った。
そして昼休みもそうしようと思っていたのだが…
「神条さん、ちょっとよろしいかしら?」
見ると、極上寮の朝食時のメンバーの1人だ。つまり、極上生徒会役員。
薄茶色の長髪で、美人だ。
「何の用だい?」
ぶっきらぼうに答えられ、彼女は少々気分を害したようだが、あまり表に出さず、続けた。
「ええ、よろしければ昼食をご一緒しないかと思いまして。」
「悪いけど、あたしは昼食は食べないんだ。」
「まあ、それは体によくありませんわね。でしたら…」
「久遠さーん」
久遠と呼ばれたその少女は、声の主に目を向けた。
「聖奈さん。どうされました?」
聖奈と呼ばれた少女はにこにこと言った。
「ちょっと予算のことでまゆらさんに呼ばれちゃいました。来てくれます?」
「…ええ、今行きますわ。」
久遠はしぶしぶという様子で返事した。
「では、神条さん。またお話しましょうね。」
そういうと、教室を出た。
聖奈はそれを確認し、教室の外から、ひょこっと顔を出した。
「神条さん、またね〜」
遠ざかる足音を聞き、芹華は席を立った。
(とりあえず、魔物の気配を探すか。)


昼休み中散策したが、やはり魔物の気配はない。
(となると、やっぱりここでの任務はあの人形退治ってことになるか。)
それでも万全を期すため、放課後も散策しようと席を立った。
「芹華、宮神学園の授業はどうだ?」
が、奈々穂に声をかけられた。
(…ここの生徒はなんでこう、邪魔ばかりするんだ。)
「ああ、悪くないよ。それじゃ…」
「?どこに行くんだ?」
「あんたには関係ない。あたしにはあたしの用がある。朝、そう言っただろ。
あたしに構わないでくれ。」
ぴしゃりと言われ、言葉を失う奈々穂の前を通り過ぎ、散策に向かう。
(…ちょっと言い過ぎたかな。でも、その方がいいんだ。関わらせちゃいけない…。)


数時間が経ち、暗くなってきた。
だが、やはり学園内に魔物の気配はない。
あくまで魔物の気配は、だが。
芹華は廊下で歩みを止めた。
「出てこいよ。」
薄暗い廊下は何も答えない。
「もう分かってるんだ。隠れたって無駄だよ。」
しばらくして、気配が消えた。
「…逃げたか。」
(なんであたしがつけられてたんだ?一体、なんなんだ、この学園は…)


夜に極上寮に帰ると、玄関で奈々穂が腕を組んで立っていた。
「門限ぎりぎりだな。一体、何をしていた?」
「……さあね。」
「言いたくないなら、無理には聞かない。
だが、これだけは確認させてもらう。
芹華がしていることは、宮神学園…、会長にあだなすことでは、ないだろうな?」
「あたしは奈々穂達と敵対するつもりはないよ。」
「…そうか、なら、信じる。」
そう言うと、奈々穂は肩の力を抜いた。
「夕飯はまだだな?管理人さんが待ちくたびれているから、早くした方がいい。
今度から、帰りはあまり遅くならないようにな。」


管理人が小学生という事実に面食らいつつも、夕食を済ませ、
芹華は部屋に戻った。
寝間着に着替え、ベッドに横たわる。
(明日からは、あの人形について調べる必要があるな。本当にあれが魔物なのか?
…それにしても、恵美にも、あいつにも、連絡取る暇がなかったな。
心配…してるのかな。)
ふと、備え付けの電話が目に入る。
と、同時に電話が鳴る。
ここの電話番号を知っているとなると、どうせまた仕事の電話だ。
「…まだ何かあるのか?」
「用件は手短に済ませる。この通信は傍受されている可能性が高い。」
「は?盗聴ってことか?一体…」
「とにかく聞け。今後電話での連絡は取らない。以上だ。検討を祈る。」
ガチャ。
一方的に切られてしまった。
「傍受…?」
一体何が起こっているというのだろうか。
しかし、何にせよ、これで恵美たちに電話する気は失せた。
(万一盗聴されてるとしたら、恵美やあいつにも何か迷惑がかかるかもしれないもんな。)


翌朝の朝食時、人形を手にした少女に話しかけてみた。
「やあ、随分腹話術が上手いもんだね。」
勿論、あれが魔物ならば腹話術ではないはずだが。
少女は少し困った笑顔で答えた。
「えへへ、腹話術じゃないんですよ。ね、プッチャン。」
「ああ、オレはオレだぜ!」
(腹話術じゃない…?なら、この子はこれが魔物だって知ってるのか?)
「ええと、じゃあ、この人形は何者なんだい?」
「プッチャンです。」
「いや、名前じゃなくて」
「プッチャンはプッチャンですよ?」
「そ、そうか。」
(駄目だ、話にならない。)
少女は、そうだ、とつぶやき、プッチャンを差し出した。
「ちょっと手につけてみて下さい!」
「え?」
と、芹華が明確に答える前に、少女は勝手にプッチャンを芹華の手にはめた。
「よう、白髪ねーちゃん。」
「だから白髪じゃ…、…!?え、ちょっと待て、これは…」
「ハハハ、分かったか?オレはオレなんだよ。」
芹華は腹話術などやっていない。
だが、プッチャンは間違いなく芹華の声でしゃべっている。
(やっぱりこいつが魔物か…!)
少女が、芹華の手からプッチャンを取り、自分の手に戻すと、またプッチャンの声は元に戻った。
「つまり、こーゆーことだぜ。」
(となると、この声もあの子のものなんだな。)
どうやら、この少女は魔物にとり憑かれているらしい。
(早くなんとかしないと…!)
少女に危害が及ぶ前に、カタをつける。
芹華はそう、胸中で決意した。


この日は普通に授業を受け、休み時間は睡眠時間に充てた。
昼休みには、また生徒会役員が来る前に、さっさと屋上に向かう。
そしてまた昼寝だ。
プッチャンは常にあの少女、確か蘭堂とかいう少女だ、彼女と行動を共にしている。
彼女に事情を説明して、魔物を退治するわけにはいかないだろう。
なにより、あまり巻き込みたくない。
そうなると、今晩、皆が寝静まった時間に蘭堂の部屋に忍び込み、
速やかに魔物を奪取して、誰にも迷惑のかからない所で戦うのが得策だろう。
だから、今は睡眠を取って夜に備えなければならない。
そうして一日の授業は終わっていった。
特に急ぎもせずに帰り支度を整えていると、
「芹華、今日は用はないのか?」
奈々穂が声をかけてきた。少々遠慮気味な声色だ。
「…ああ、今日はまっすぐ帰るよ。それがどうかしたかい?」
「それなら、一緒に帰らないか?」
本音を言えば断りたかったが、奈々穂の遠慮気味な態度が、
昨日の自分のふるまいに対する罪悪感を呼び起こした。
「…ああ、構わない。」
奈々穂はその答えに満足したようで、微笑んだ。
「そうか、じゃあ行こう。」


極上寮に向かいながら、奈々穂は宮神学園について語った。
その内容から、とにかく会長第一主義な学園なのだと分かる。
そして、
「…隠密?」
引っかかる言葉だ。普通の生徒会にはない。まあ、普通は車両も遊撃もないが。
奈々穂は軽く頷いた。
「ああ、隠密は主に情報収集や情報操作など、裏方の仕事をしている。」
「…情報収集、か。」
もしかしたら、電話を傍受という件も、昨日つけられていた件も、それかもしれない。
「隠密って、一体何の為にそんな真似をしてるんだ?」
「奏会長の為だ。」
「…そうか。」
(またそれか。)
とにかく何を聞いても、最終的には会長の為!に行き着くようだ。
(本当に、一体なんなんだこの学園…)
「もし芹華が極上生徒会に入るというなら、運動神経から考えて、
おそらく遊撃所属になるだろうな。」
「遊撃って…、奈々穂がリーダーの武装グループだっけか?」
「…もっと気の利いた言い方はないのか。」
「…対人戦闘部隊?」
「…まあいいが、遊撃は遊撃だ。
ところで、やはり極上生徒会には来ないのか?」
「ああ、悪いけどね。」
「そうか。」
少々気落ちしたような声だ。
(…でも、やはりそんな目立つ生徒会には入るべきじゃない。
そもそも、あたしはすぐに出て行く身なんだからな。)
すぐに出て行く身。
その事実になんとなく寂しさを覚える。
「…?芹華、どうかしたか?」
「あ、いや…なんでもない。」
「何か心配事があるなら、遠慮はいらない。いつでも相談してくれ。」
「ああ、大丈夫だ。心配いらないよ。」


そうして極上寮に着き、夕食が済んだ。
仮眠を取りながら夜を待つ。
……………。
目を開けると、深夜2時ぴったりだ。
(今なら、さすがに起きてないだろ。)
音を立てずに布団から抜け出し、仕事道具を片手に部屋を出る。
廊下は真暗で、ほとんど何も見えない。
だが、夜に活動することには慣れている。
既に暗記した道を速やかに進み、すぐに蘭堂―いや、魔物のいる部屋に至る。
途中で一度、何故か落ちていたバナナの皮に足をとられ、こけたが。
寝ている人間を起こすほどの物音は立てなかった。
(確か会長と相部屋だったな。まあ、二人とも寝てるだろう。)
力を使い、静かに鍵を開ける。
ドアを開けた瞬間、部屋に明かりがついた。
「!」
「こんな時間に何の用かしら、芹華さん。」
起きている気配などなかったはずだが、
そこにはにこやかに微笑む会長がいた。
(まずいな…。)
「えーと、あれ?ここは…、ああ、悪いね。寝ぼけてたみたいだ。」
嘘が苦手なので、つい適当なことを言ってしまう。
会長は笑みを絶やさない。
「そう?私はてっきり仕事で来たのだと思ったわ。」
「!」
「ごめんなさいね、隠密を使って調べさせてもらったわ。あなたのこと。」
(馬鹿な…、たかが高校生にばれるようなものなのか?)
芹華の思いを見透かしたように、会長は続けた。
「私の学園の隠密は優秀なの。
…そして、あなたをここへ派遣するよう仕向けたのは、私の祖父らしいわ。
ご迷惑かけて、ごめんなさいね。」
「祖父…?」
(何か勘違いしているな。あたしの上司は国だぞ?)
「私の祖父は国の重役にも顔が利くの。
勝手にしゃべる人形プッチャンの噂を聞いて、急いであなたを派遣したらしいわ。」
「あんた、一体・・・」
「それより、あなた、宮神学園に来ない?」
「え?あたしは今、宮神学園に通っているじゃないか。」
「でも、仕事の間だけ。そうでしょう?」
「!」
(まいったな、なんでもかんでもお見通しかい?)
「…さあね。」
「私が言っているのは、卒業するまでここにいたらどうかしら、ということよ。」
「卒業するまで…?」
会長は一体何を考えているのだろうか。
「あなたのことを調べさせてもらった、と言ったわね。
…ご両親のことも、調べさせてもらったわ。」
「まさか…、どこにいるか、分かったのか!?」
会長は悲しげに首を横に振った。
「そこまでは、調べられなかったわ。ごめんなさい。
でも、あなたを守ることはできる。」
「…あたしを?」
「ええ。宮神学園の中でなら、あなたを国から守ってあげられる。
無理やり働くこともないの。」
予想外の展開だった。
国から、守る?
働かなくても…いい?
「な、何言ってるんだよ。そんなの無理に決まってるじゃないか!」
「無理じゃないわ。…本当よ。」
会長の目を見る。本気だ。
考えてみたこともなかった。
国から自由になれるなんて。
でも…。
「でも、駄目だ。約束があるんだ。もえぎの高校での仕事が終わったら、そしたら…」
「国が、本当に約束を守ると思う?」
「…っ。」
「私は、守るわ。だから、宮神学園に来て。」
会長の真剣な目を見ていると、まるで芹華と…何かを重ねているようだった。
会長にも、似たような経験があるのだろうか。
自由を奪われ、ただ命令のままに生きるような経験が。
それとも、そんな知り合いがいるのだろうか。
「どうかしら。」
混乱しつつも、考えた。
考える中で、恵美たちの、もえぎの高校の…友人の顔が浮かんだ。
そして一瞬、坂の伝説も頭をよぎる。
大きく、ため息を吐いた。
「…気持ちは嬉しいけど、できない。できないよ。」
「どうして?」
「あたしは…もえぎの高校で、卒業したいんだ。もう、あそこでないと…駄目、なんだ。」
自由は欲しい。
ずっと求めていたものだ。
けど、その代償が、もえぎの高校での残りの日々であるなら
それは、絶対に捨てられない。
どうしても捨てられはしない。
「悪いけど、…プッチャンを倒して、あたしはもえぎの高校に帰る!」
ぱっと飛び出し、ぐっすり寝ている蘭堂の手からプッチャンを奪う。
「!芹華さん!」
が、その瞬間、プッチャンはヨーヨーで巻き上げられた。
「そこまでだ!」
ここ2,3日で聞きなれた声。
「…奈々穂。」
奈々穂はヨーヨーを手に、厳しい声で聞いた。
「神条芹華。こんな時間に一体、何の騒ぎだ?答えによっては…」
「待って、奈々穂。芹華さんは敵ではないわ。」
会長はまだ芹華を庇う気だ。
「いや、あんたたちがそいつを守ろうとするなら、残念だけど、敵だよ。」
「…どういう事情だ?」
「いちいち話している暇は…!」
「待って、芹華さん。」
待つ気はない!
…言いたかったが、言えなかった。
何故か、待とうという気にさせられてしまった。

会長が事情を話すと、奈々穂はさらりと言った。
「…そういうことなら、プッチャンを退治してもらえば済む話じゃないですか。会長。」
「でも、それじゃありのが悲しむわ。」
「…なら、こちらは退治を望んでいないのだから、退治しなくてもいいんじゃないのか、芹華?」
そう言われ、芹華は額に指を当て、うめいた。
「…いや、そうもいかないよ。あいつら、融通のきく連中じゃないからな。
第一、依頼人はあんたじゃなくて、あんたのお祖父さんなんだろ?
それじゃ、どうにもならないよ。」
「そんなこともあろうかと」
「聖奈さん!?なんでここに…?」
奈々穂の疑問に、いきなり部屋に入ってきた聖奈は笑顔で答えた。
「隠密ですからー」
「いや、でもそういうことじゃなくて」
「隠密ですから」
「…そうですか」
「そうです」
「…それで、聖奈さん。その手の後ろには何を隠しているの?」
会長の疑問に、聖奈は笑顔で答えた。
「はい、こんなこともあろうかと、用意していたものです。」
聖奈が差し出したのは、精巧なプッチャン人形であった。
「これを除霊後のプッチャンとして国に提出すれば、万事うまくいくかなと思うんですけど。」
会長が受け取り、じっくりみつめる。
「本当、よくできてるのね。」
「ええ、厳密に厳密を追求したので、30万もかかっちゃいましたー」
「なら、安心のクオリティーね。」
「勿論です、会長。」
会長は、精巧偽プッチャンを芹華に差し出した。
「これで、どうかしら?」
が、芹華は受け取らなかった。
「こんな手、すぐにばれるよ。奴らに通じやしない。」
「それはどうかしらー」
聖奈がにこにこと言った。
会長も聖奈に微笑みかける。
「国への圧力、うまくかかりました?」
聖奈はにこにこと返した。
「勿論です。」
「く、国への圧力…!?」
(宮神学園って…本当、なんなんだ?)


結局。
うまくいったらしい。
とりあえず、プッチャンを退治したことにしたら、
1日後、芹華にまた元の高校に戻るよう、手続きが行われていた。
芹華はまだ不安だったが、会長に大丈夫と言われたら、何故か少し安心した。
そして。
芹華は手早く荷物をまとめ、極上寮の玄関に立った。
見送りは、奈々穂と会長とシンディだ。
「芹華、忘れ物はないか?」
言われた芹華は苦笑した。
「ないよ。小学生じゃあるまいし。」
「そうか、そうだったな。シンディ、車を…」
「ああ、いいよ別に。駅までくらいなら歩いて行けるからさ。」
「だが…」
「いいって。歩きたいんだ。」
「なら、送っていく。」
「遠慮しとくよ。…別れにくくなるからさ。」
「芹…」
「それじゃあ、元気でね。芹華さん。」
「グッドラック」
「ああ。そっちの皆も…、な。色々ありがとう。それじゃ。」
芹華は背を向けて歩き出した。
この学園に留まれば、自由は手に入る。
でも、その自由はこの学園の中だけのものだ。
とはいえ、もえぎの高校に戻れば、そんな一時的な自由すらない。
でも、それでも。



翌日。
芹華はようやくもえぎの高校に戻ってきた。
「芹華!!」
下駄箱で、朝錬帰りの1人の男子生徒がツチノコでも見たような顔をした。
「やあ、おはよう。」
「お、おはようって…、恵美ちゃん!芹華来てるよ、芹華!」
すぐに恵美も小走りで来た。
「まあ、芹華!数日間もどうしてたんですか?」
(ははっ、恵美の敬語も、あの学園の連中のと比べたら、たいして気にならないな)
「…?芹華、どうしたんです?にやけてますよ?」
「恵美ちゃん、せめて顔が笑ってるとかいう表現しようよ。」
芹華は、微笑んだままで言った。
「いや、ちょっとバイクで遠くに行き過ぎてね。帰ってくるのに手間どったんだ。」
勿論嘘である。
「だから私いつも、バイクは危ないと…」
「悪いのはバイクじゃなくてあたしだよ。」
「でも、無事でよかった。今度は怪我とかしてないよな?」
「ああ、怪我なんてしてないよ。」
「本当心配したんだからな?電話も通じないし…。」
「ここ数日、部活にもいまいち身が入ってない様子でしたしね。」
「…ごめん恵美ちゃん。」
「いいんですよ。私も実は、そうでしたから。芹華、あまり、危ないことはしないで下さいね?」
まっすぐな目から、やや視線を逸らした。
「ああ、気をつけるよ。」
「芹華、ちゃんと私の目を見て言ってください!」
「ああ、恵美、もうHRが始まるんじゃないか?」
「ごまかされませんよ!」
「わ、恵美ちゃん、芹華の言うとおりだよ。あと1分でチャイムが鳴る!」
「え!」
「ほら、急ぐぞ恵美!」
芹華はたっと駆け出した。
ふと、窓を見ると、梅雨の曇天から、陽が差し始めていた。

END.


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こんなとこにあとがき。

はい、極上生徒会とのミックスジュースです。
バナナの皮にこけたのは、芹華がどじだからです。
・・・。
すみません、奈々穂に芹華の動きを気付かせる為です。他に方法が思いつかなかったんです。
なんでバナナの皮?…って、だってこけて物音立てるといえば、バナナしか(貧弱な思考回路)。
これの、奈々穂視点Ver.も書きました。そっちは極上特設会場に置いてあります。
疲れました。長いですこれ。むしろこんな長いのを最後まで読んでくれる方はおるのでしょうか。
いなかったら、くたびれもうけですね。
…いや、きっといるさ。きっと。
そして極上的な補足を少し。
会長さんの言葉には時々不思議な力があるようで、なんか言霊がどうとかいう噂です。
そういや芹華って条だし、不思議な力あるし、神宮司家との関わりとかでもSSできそうですね。
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